CHAPTER 14
当たり前に、そこにいる
障害児の家族として
五男さんのことを、聞かせてください。
早産で生まれた双子は、無事にNICUを退院しました。四男は難聴の疑いで1年ほど検査に通いましたが、今は通常の生活を送っています。
五男は、最初の1年は「順調」に育っていたんですが、発達がゆっくりで、1歳の誕生日を迎える頃に、MRIで脳性麻痺と診断されました。肢体不自由で、2歳の頃から車いすユーザーとして暮らしています。
発達がゆっくりだと気づいたのは、いつでしたか。
実は、田んぼ仕事をしたかったこともあって、「まだ自分で動けない」ということを、ありがたがっている部分もあったんです。日々を暮らすのが精いっぱいで、元気であればそれでよかった。発達のペースには、あまり関心を払っていませんでした。2か月早く生まれたので、ゆっくりなのは織り込み済みでしたし、「今はこれくらい」と基準と照らし合わせる作業を、していなかったんです。
でもある日、はっとしました。
あれ? 予定日から考えても、もう8か月目だ。一度寝返りをしたきり、一度も寝返りを見ていない!
そこからは、発達が遅いなと気づいていましたし、斜視も出はじめていたので、夜な夜な調べてはいました。でも、慌てて病院に行くというより、次の受診日まで一月ほど待ちました。そこで初めて、懸念を言葉にしたんです。
お医者さんなら、発達の遅さに気づいていたはずです。でも若い先生でしたし、遠慮していたのかもしれません。私から「先生、ちょっと気になるんです」と言うまでは、まったく指摘がなかった。だから、安心していた部分もありました。
「やっぱりか」と納得した部分と、それでもやはり、涙がとめどなく出てきました。ここから彼がどんな発達をしていく見込みなのか、皆目見当がつかなかったからです。
突然、右も左もわからない見知らぬ土地に、放り投げられたようでした。地図はない。周りに人もいない。
どちらの方向へ行けば、「彼のベスト」という目的地に、より近づけるのか。その答えが今すぐにほしいのに、どこへ行って、何を調べて、誰に聞いて、何をすればいいのか、まったくわかりませんでした。
診断が下りれば、案内のようなものがあると思っていた。
障害や難病の診断が下りると、これからどんなところにアクセスできて、どんな制度が使えて、どこで情報を取ればいいのか。そういう「地図」のような案内があるんだと思っていました。
でも、全然違ったんです。「脳性麻痺」という、比較的人口の多い障害ですら、まったく何の手がかりもないまま、放り投げられてしまった。そんな感覚でした。
いちばん伸びる時期――1日でも若いうちに――リハビリを始められなかった。のんきに「動かないから安心」なんて思って畑仕事をしていた自分に、後悔と懺悔の気持ちが湧きました。何とか少しでも取り戻したい。その一心でした。
それで、ベビースイミングと障がい者乗馬を始めました。どちらも、とても効果を感じました。わが子には、合っていたんです。
彼を通して初めて、“障がい者”が自分事になりました。障害のある方々の世界の扉が、初めて開いたんです。
ご家庭での五男さんは。
男5人でのびのび暮らしているので、兄たちにもまれて、いっちょまえに自己主張して、挑戦して、甘えて、成長しています。私たちにとって、彼は“ひとり”で、何の違和感も“特別感”もない。特別な配慮が必要な人、ではなく、それぞれの個性の幅の中にいるんです。この環境が、彼にとってとてもいいと感じています。
家で当たり前に共にいる姿を見て、家の外の環境も考えるようになった。
保育園や小学校にも、そういう環境があったらいいのに、と思ったんです。障がい児も健常児も、当たり前にそこにいる。それがお互いにとって、一番成長できる環境だと、私の目には映ります。
でも実際には、ほとんどない。いまの「インクルーシブ」は、健常者ベースの場に「障がい者もいていいですよ」「入れてあげますよ」という建て付けが多いんです。あるいは、障がい者ベースの場では、健常者が“支援する側”として存在している。
違う、違う。
私は、どちらも当たり前に存在して、当たり前に支え合い、
認め合い、面白がれる場がいいんです。
水中リハビリと乗馬には、はっきり効果を感じたそうですね。
肢体不自由の子どもにとって、水中リハビリはとても効果があると感じています。五男とベビースイミングに通った体験からの確信です。早い段階から続ければ、将来の身体能力の到達点は、かなり底上げされると思う。なのに、その情報も環境も、日本にはほとんどないんです。
ハイドロセラピーという水中リハビリの存在を知って、ぜひ取り入れたいと思いました。でも、リハビリセンターの専門医の先生方に何人も尋ねても、誰も何も知らないんです。「ああ、そういうのも確かに聞いたことがありますね」くらい。
誰も、自分事じゃない。
もどかしい。もどかしいので、自分でそういう環境をつくりたい。本気で、そう思っています。
乗馬も、とても効果があります。ただ、型にはめたやり方だと、せっかくの効果が半減してしまう。その子自身の力を引き出すには、待つことも、呼吸を感じてあげることも、乗せてくれている馬の気持ちも大切なんです。それが大切にされたとき、子どもは自分の力を発見して、自分の意志で使って、次の挑戦へ自分から進んでいく。
それを体現している方に、奇跡的に出会うことができました。今、月に1〜2回、片道6時間かけて通っています。
その二つが、いま構想している場につながっている。
私がつくりたい「みんなのおうち」では、乗馬と水中での活動ができるようにしたいんです。
誰もが、浮力と、動物の体温と、揺れと、
「自らの意思で移動する」という体験の恩恵にあずかれる場所を、つくりたい。