CHAPTER 11

菌にも、命を感じる

帰国・牧場

帰国後は、国内の牧場へ。

“家族を守るため”に帰国して、働きはじめました。その牧場では、家畜の餌になる牧草から、繁殖、育成、搾乳、と畜、解体、加工・包装、食品検査まで、すべてを一貫して担っていました。

その牧場には、自然や命をとても大切にする理念が、確かにあるんです。それでも、食品安全のために、防鳥ネット、殺鼠剤、野良猫の侵入防止、殺虫剤、消毒薬を駆使します。それが、私にはとても苦しかった。

高校のとき思い描いた、命を奪われる命たちに「最後に接する人間」。その牧場で、そうなれたと感じましたか。

私は、「最後に接するニンゲン」ではありませんでした。彼らに、安心や心地よさを差し出すことは、できなかったんです。ただ淡々と、自分に課された役割を、機械の歯車のひとつとして担うだけでした。

それでも、日々出会う動物たちには、
いつも、リスペクトと愛情をもって接していました。

菌にも、命を感じていたそうですね。

細菌にも命を感じる性分なんです。特にラボの仕事は、消毒、消毒の毎日でした。定期的に殺虫剤もまきます。私にとっては、無差別な大量虐殺でした。命への侮辱に思えるほどの。手指消毒ひとつとっても、悲しさと申し訳なさが湧いてきました。

毎日、静かに、心が削られていきました。副業も禁じられていて収入にも限界があったので、ここでは長くは働けないな、と、早い時期から感じていました。

逆に、培養している菌たちには、愛着を持っていました。目に見えなかった彼らが、培養という工程を経て、目に見える姿になると――

「ああ、そこにいたんだね」

そんな、温かい気持ちになるんです。……菌がいてはいけない場面で菌が育つと、ドキッとしましたけど。